私の在宅医療(第4回 うえだ下田部病院へ そして在宅療養部開設)

クリニック前の桜

そういう医者人生を過ごしてきた中で、頼まれた別の同和地区の診療所へ行ってみたりいろいろしながら、1995年、阪神・淡路大震災の年にうえだ下田部病院に行くことになりました。自分自身は地域における訪問診療などの経験を持っていたのですが、勤務した病院は外科があり、救急指定病院で、普通の病院らしい病院だったのですね。

そういう所からうえだ下田部病院に行ったら、カルチャーショックですね。1階の待合室のエレベーターが開いたら、ある看護師さんがガラガラガラと1台の患者さんが寝ているベッドを出して、廊下に置いといて、また上がっていって下りてきて、もう1台患者さんが寝ているベッドを出して、病院の玄関から2台のベッドを1台押して、1台引っ張って隣の噴水がある公園へ行くわけです。

ベッド2台をガラガラガラと押して、比較的小柄な看護師さんが行くのです。「何をするんかな?」と見ていたら、花見に連れて行っていたわけです。ベッドで寝たきりの人は病棟の窓からも桜が見えないのです。もともと桜という花は下から見上げる花なので木の下までベッド2台を一人で押して行ってお花見です。

「これはすごいな!」と思って、びっくりしました。「えぇ病院やな」とその時思いました。ベッドに寝たきりの人を連れて行くような病院、それを看護師さん一人で淡々と普通のことのようにガラガラガラ引っ張ってやっている。そういう姿を見て、「これはいい病院やな」と思ったのですね。これ見よがしな振る舞いもなくまったく自然体でした。

そこでいろんなスタッフに恵まれて在宅診療のまねごとから始まりました。元々病棟から退院した患者さんを病棟スタッフが診に行ったりしていました。地域・患者さんからの距離が極めて近い病院だったので、入院中もそうだし、退院してからも病院からそこの団地まで患者さんを診に行ったり、昼休みに看護師さんが行ったりということもやっていました。

そういうことをやっていた中で、私が行ってから初めて、ALS(筋委縮性側策硬化症)の患者さんのところに往診に行きました。往診を繰り返している過程で、気管切開をされたり、いろいろされていったのですが、その時までは救急で気管切開されて人工呼吸器つけた患者さんを診た経験はあったのですが、神経難病やALSの患者さんとか、意識のあるうちに気管切開して人工呼吸をしている患者さんを診たことがありませんでした。

その時は、神経内科の先生にももちろん頼んだのですが、自分たちでは呼吸器がよくわからないということでした。そこで医大の呼吸器内科の先生に電話を入れて頼んだら、わざわざ病院まで来てくれ、家にまで行ってくれ、サポートのやり方などを教えてもらうことでやっていきました。

その先生は「自分も時々診に来るから」と言って協力してくれました。そういう連携がありました。制度も何もない、その先生は全くの無償です。自分の時間を割いてくれて、やってくれて、教えてくれて、後は落ち着くまで月に1回ぐらい診に来てくれていました。その先生は私よりも少し若く、今でも医大で外来をされています。そういう所から私の高槻での在宅医療が始まりました。

こういう中で始まった在宅療養部というものですが当時は医事課の片隅の部屋でした。後に老健の看護部長になっていただいた方がそんな場所でも「やるやる」ということで。その方は保健師さんの資格も持っており、「自分も訪問診療をやるわ」と言って張り切っていました。

その人に私が連れられて行ったのが、糞詰まりだったので私が摘便をしたんです。「手袋を貸して」と言って摘便をするのを見て、その看護師さんはびっくりしたようでした。「医者が摘便をするなんて」と。まあまあ手馴れていて、「そこそこ上手やし」ということで感心されて。「それは矢田という所の訪問で、摘便をやったよ、慣れてんねん」と言ったら、「エッ!」とびっくりされました。

その人とはかなり長い間パートナーを組んで、在宅療養部を療養部としてつくっていく上で、私が引っ張られて行くという経過がありました。そうこうするうち7年前になりますかね、もっと自分の思うような在宅をやりたいということで「しらかわクリニック」を60歳で開設してこれまでやって来ました。年齢を考えると無謀なものといえましたが、深く考えずに踏み出しました。

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